キノが記念館の案内役のお姉さんに説明を受けるところから物語は始まります。
5話目「旅人の話」のあらすじと感想
「彼の偉大さを示すには、慎まし過ぎるとは思いますが、生前華やかなことがお嫌いだった彼の生き様を表し、引退後ついの棲家を記念館として残しているのです」
と案内役のお姉さんは誇らしげに説明をします。
それを聞いたエルメスは「この国を救った偉大な人なんだよね?」とお姉さんに問いかけます。
するとお姉さんは嬉しそうに「それはもう!」と返事をします。
それを聞いたキノは「元々は僕のような旅人で、この国に偶然やってきた」と言うと、キノの言葉を遮るようにお姉さんは
「偶然などではありません!運命です。彼はこの国の美しさに惹かれ、定住を決意します。豊富な知識と経験を持って、人々の助けになり、やがて歪んだ古い政治体制を打ち崩し、初代大統領になられ、この国を正しき道へと導いたのです」
それを聞いたエルメスは「なるほど。で、中にはどんな物が飾ってあるの?」と尋ねると、お姉さんは「それは入ってからのお楽しみということで」と笑顔で答えて、記念館の中へと2人を案内します。
部屋の中に入ると、特に机以外何もないシンプルな部屋が広がっています。
それを見たエルメスが「普通の部屋だね」と言うと、キノはエルメスに「しぃー」と言います。
部屋を見渡したキノは部屋の奥の扉に注目し、お姉さんに「あちらにも何かあるんですか?」と尋ねると「はい。彼が旅人だった時の品が飾ってあります」との返事をします。
それを聞いたエルメスは「それなら面白そう」と言い、3人は奥の部屋へと入っていきます。
まず最初に説明を受けたのは、初代大統領が旅人時代に使っていた「園芸用のスコップ」。
案内役のお姉さんは
「彼はこれを旅の時に鞄の脇にいつも引っ掛けてぶら下げていました。何故だと思いますか?それはですね、彼がとても花を愛する人だったからです。彼は旅の途中にこのスコップで草花の種を植えたのでしょう。きっとそうに違いありません」
それを聞いたエルメスはキノに「あれ、トイレ用だよね?大をする時に穴を掘るためのものの」と聞きます。
するとキノはエルメスに「言わなくて良いよ」と答えます。
次に説明を受けたのは「彫刻入りの素晴らしいナイフでしょ~」とお姉さんはまた色々と説明をします。
そのナイフを見たエルメスは「キノ、あのナイフ。以前どこかの国でお土産として安く売っていた『ザ・幸運ナイフ』だね。本当に使ってた人いたんだ」それを聞いたキノは「実は効果があるのかも」と言うと、お姉さんが「何か?」とキノに尋ねます。
どうやらお姉さんは旅に出たことがないからか、想像で彼の持ち物の説明をしているみたいです。
するとキノは「どれも面白いお話です」と答えると、お姉さんは誇らしげに「そうでしょう。どれも彼の偉大さ、慈悲深さ、溢れる知恵を示す、素晴らしいものばかりです。そしてこれが彼が愛用していたヘルメットです」
それを見てキノは「これ、乗り物用ですよね?」するとお姉さんは「その通りです。奥の部屋に彼が載っていたモトラドがあります」と言い、部屋の奥へと案内をしてくれます。
モトラドを2人に見せるとお姉さんは「どうですか?彼はこのモトラドで旅をしていました。ちょうどキノさんのように」
これを聞いてキノは「なるほど。僕も別のモトラドを見るのは初めてなんです」
それを聞いたお姉さんは「それはそれは。彼はこの国に移住をしてからも、毎日これで移動をしていました。彼の死後、議会はこのモトラドを永久に保存すると全会一致で決めました。最高のメカニックに整備させ、いつでも走れるコンディションを保っています。このモトラドはいつまでもこの場所で、彼の偉業の証として存在し続けるでしょう」
これを聞いてキノは「このモトラドはしゃべりますか?エルメスみたいに」とお姉さんに尋ねます。
するとお姉さんは「ええ。昔はよくしゃべっていたそうです。しかし、彼が亡くなったあと、やはり寂しいのでしょうか、誰とも口を利かなくなってしまいました」
それを聞いてエルメスは「ねぇ、案内のお姉さん。ちょっと外してもらえると嬉しい。ひょっとしたら何か言うかもよ?」と言うと
お姉さんは「まぁ!それは楽しみですね。何かしゃべりましたら是非教えてください」と嬉しそうに去って行きます。
お姉さんがいなくなったあと、しばらくモトラドを観察するキノたちですが、何も変化も聞こえもしません。
キノはエルメスに「ひょっとして、モトラド語は僕には聞こえない?」と言うと
「良いねぇ」とモトラドはエルメスに話しかけます。
「良いでしょ」と嬉しそうに返事をするエルメス。
するとモトラドは「良いねぇ。君は毎日走れるのか?」と尋ねると、エルメスは
「良いでしょ。キノは大抵、毎日走るね」
するとモトラドは「ここは地獄だよ」と言います。
それを聞いたエルメスは「だろうね」と返事をします。
モトラドは「モトラドは走るために生まれた。走るために存在する。飾られるためなんかしゃない」
それを聞いたエルメスは「地獄だね」と返事をします。
モトラドはキノに「ねぇ人間さん、ここから連れ出してくれ。そして乗って走って」と言うと、キノは「それはできないよ」と返事をします。
モトラドは「ならせめて、君の手でボロボロになるまで叩き壊してくれ」と言うと、キノは「それもできない。僕はこの国の人に憎まれ、次に僕がボロボロになるまで叩かれるから」と返事をすると、エルメスも「そうなるとこっちも困るね。キノは明日の夕刻に出国する予定なんだ」と言うと、
モトラドは「そうか…そうか…そうか…」
と消え入りそうな悲しい声で言います。
次の日の夕刻、キノがこの国を旅立とうとしています。
すると掃除をしていた男の子がキノに走り寄ってきて話しかけます。
「あの、お気をつけて!旅の成功を」
それを聞いたキノがお礼を言うと、男の子は
「えっと…旅人さんはどうやって旅を始めたんですか?」と尋ねます。
するとキノは「きっかけは乱暴だったけど、今になって思うと、誰からも命令されていないのに、それをやりたいと思うから…かな?」と言うと、
「どうやったら僕も同じ旅人になれますか?旅人さんと同じよう方法でなれますか?お父さんとお母さんは馬鹿な夢だって言うんです。お前はこの宿を継ぐんだって…でも僕は外に出てみたい!旅人になりたいんです」と男の子はキノに言います。
するとキノは「分かりません。でも、方法は一つじゃないよ。記念館に初代大統領のモトラドがあるでしょ?そのモトラドに同じ質問をしてみると良いですよ。ひょっとしたら答えをくれるかもしれない」と言うと、男の子は「話が出来るの!?」と驚きます。
キノは男の子に「試しにやってみたら?」と言うと男の子は嬉しそうに「分かった!」と返事をします。
そして旅立つキノ。
そんなキノとエルメスを見送った男の子は「かっこいいなぁ」と羨望の眼差しで見送り続けます。
男の子が記念館のモトラドに話しかけて、あのモトラドが一緒に旅に行くことを提案してくれると良いなと思う作品でした。
物というものは使うために存在していて、使わずに大事に持っていたり、飾っていたり、しまっているものって結構家にありますよね?
お気に入りの物や高価な物だと私も同じような扱いをしてしまっています。
もしもその物たちが話せたとしたら…きっと、このモトラドと同じ気持ちで同じようなことを言うのだろうなと思うと…持ち物というのは最低限のものだけあれば本当に良いのかもしれませんね。
世の中は広くて、物を大切にするということにも人それぞれの意見があることも、このお話から伝わります。
今日も色々考えさせられてしまうキノの旅です。